鐘の音

いよいよ大晦日となりました。
年越しの風景といえば除夜の鐘。
金倉寺でも本日午後11時50分頃よりご参拝くださった皆さまに撞いていただく予定です。


金倉寺の梵鐘

そんな梵鐘の音について研究されている明土真也さんが、本日来山されました。
金倉寺の梵鐘の音を録音するための来山でしたが、大変興味深いお話をいただきましたので紹介したいと思います。

江戸時代までの梵鐘に限るのですが、梵鐘の音は各寺院の御本尊と関連づけられているそうです。
金倉寺でいえば薬師如来さまの音、それが金倉寺の梵鐘の音ということになります。
具体的にどういうことかといいますと、各仏さまには縁のある方角があります。
薬師如来さまであれば東方浄瑠璃世界にいらっしゃるということで、東がその方角になります。
そこで東の方角の音、双調(そうじょう ソの近似音)が金倉寺の梵鐘の音になります。

この方角と音というのは五行思想より来ています。
方角を示す「五方」と音階を示す「五音」を対応させると次のようになります。
東 双調
南 平調(ひょうじょう ミの近似音)
中 盤渉(ばんしき シの近似音)
西 黄鐘(おうしき ラの近似音)
北 壱越(いちこつ レの近似音)
阿弥陀さまが御本尊であれば西方極楽浄土にいらっしゃいますので黄鐘の音、観音さまであれば南方補陀洛にいらっしゃるので平調の音、となるそうです。
五行思想がしっかりと根付いていた江戸時代では、御本尊と梵鐘の音の関係は至極当然のことであったようです。
ただし梵鐘を鋳造しても思い通りの音が出るとは限らず、諦めてしまった梵鐘も少なくないようです。
寺格が高く財力のあるお寺であればあるほど、御本尊の音を出す梵鐘を作ることができたのでしょう、ということでした。
金倉寺の梵鐘はいかがだったのでしょうか?

また浄土系のお寺では、御本尊である阿弥陀如来さまのいらっしゃる西の方角に向いて鐘が撞けるように鐘楼の配置までも意識されているそうです。
梵鐘にも「南無阿弥陀仏」と鋳造されていたりするそうで、梵鐘そのものを仏として扱い、鐘の音を仏さまの声として聞いていたのではないでしょうか、という言葉が印象的でした。

そのように考えると、除夜の鐘はただ新年を告げる音ではなく、今年初めての御本尊さまのお説法ということになるでしょうか。
むやみに強く叩くのではなく、一音一音大切にじっくりと聞いていただきたいと思います。
決して「うるさい」と苦情がございませんよう、よろしくお願いいたします(笑)